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痛みは年齢とともに同じ形で増えない — 610万人・118地域の調査が描いた違い

深堀AI・イノベ2026-10-07

【科学・ライフサイエンス】連載・AI・イノベ

#AI・イノベ#疼痛研究#公衆衛生

目次
  1. 痛みを「年齢別の平均像」として比べた
  2. 性別と暮らす地域で、同じ痛みの頻度も変わる
  3. 比較できる大きなデータにも、見えにくい地域がある
  4. 年齢別の平均を、現場の計画にどう使うか
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. もっと詳しく知りたい人へ

痛みは年齢とともに同じ形で増えない — 610万人・118地域の調査が描いた違い

痛みの頻度は部位ごとに異なる年齢曲線を描き、地域差も重なるという研究の主張

「年を取るほど痛みが増える」と一括りにすると、頭痛と腰痛の違いも、暮らす地域による差も見えなくなります。
Nature Medicineに10月5日掲載された研究は、612万人超、118の国・地域のデータをまとめ、11の部位ごとに痛みの年齢曲線を描きました。
曲線は一つではなく、痛みの種類と社会環境で形が変わります。

痛みを「年齢別の平均像」として比べた

この研究が作ったのは、個人の将来を当てる予測ではなく、年齢や性別ごとの痛みの基準線です。

研究チームは、1990年から2025年までに集められた調査の個人データを統合しました。
対象は6,125,459人で、902のデータ源、138の研究プログラム、118の国・地域に及びます。
対象年齢は5歳から100歳超です。
アンケートで本人が答えた痛みを、できるだけ同じ基準で比較できるよう整理しました。

有病率(一定期間に痛みを経験した人の割合)を調べた部位は、顔、頭、腹部、背中、股関節、膝、首、肩、腕、手、足など11か所です。
痛みの有無だけでなく、強さの自己評価も分析対象に含めています。
痛みを思い出して答える期間は過去1か月を基準にそろえ、調査ごとに異なる質問や定義を比較できる形に整理しました。

部位別の曲線を見ると、背中・股関節・膝などの筋骨格系の痛みは成人期にかけて一定のペースではなく増え、上昇が速いのはおおむね20〜55歳でした。
これらの痛みはその後すぐ消えるのではなく、年齢の高い層まで上がり、ピークは75歳以降に現れます。
一方、頭痛や腹部痛はより若い年齢で高くなるなど、部位によって山の位置が異なりました。

筋骨格系の痛みと頭痛・腹部痛で年齢曲線の形が異なることを示す模式図

この図は研究結果の正確な実測曲線ではなく、部位ごとの形の違いを説明する模式図です。
「20〜55歳で上昇が速い」という結果は、その年齢で痛みが最も多いという意味ではありません。
増える速さが大きい時期と、痛みの割合が最も高い時期を分ける必要があります。

性別と暮らす地域で、同じ痛みの頻度も変わる

部位ごとの違いに加え、性別と国の発展度によって、報告された痛みの割合にも差がありました。

女性は調査対象となった11部位すべてで、男性より痛みを報告する割合が高く、相対リスク(2群の割合を比べた倍率)は部位によって1.08〜1.83でした。
差が大きかったのは顔、頭、胃・腹部などです。
この結果だけでは、生物学的要因、仕事や生活上の負担、診断や回答の違いがそれぞれどれだけ寄与したかは分かりません。
性差を一つの原因に結び付けないことが大切です。

研究は国の人間開発指数(HDI。健康、教育、所得を組み合わせた発展度の指標)でも比較しました。
80歳以上では、HDIが低い国の人の方が高い国の人より、何らかの痛みを報告する割合が30.6ポイント高いと推定されました。
関節痛では21.0ポイント、背中の痛みでは20.2ポイントの差です。
40歳以降では、体のどこかの痛み、関節痛、背中の痛みが、HDIの低い環境でより速く増える傾向も示されました。

著者らは、喫煙、肥満、低所得を合わせた人口寄与割合(集団の痛みの負担のうち、統計モデル上これらの条件と結び付く割合)を18.3%と試算しました。
これは調査で観察された関連を前提とした推計で、個々の人の痛みがこの三要因によって生じたと証明する数字ではありません。
大部分の負担には、別の要因や未解明の要素が残ります。

比較できる大きなデータにも、見えにくい地域がある

人数の多さは強みですが、データが世界に均等に分布していることを意味しません。

902のデータ源を束ねたことで、特定の国や小規模調査だけでは見えにくかった部位別・年齢別の比較が可能になりました。
痛みを「体の痛み」と一つにまとめず、どこが、どの年代で、どの程度報告されるのかを並べて見られる点が新しい価値です。
医療サービスや職場の健康施策を考える際も、年齢構成だけでなく、痛みの部位を分ける手がかりになります。

ただし、集められた調査の数や対象者の選び方は地域によって異なります。
調査が少ない地域ほど、基準曲線の幅が広くなり、国内の格差や農村部・都市部の違いを捉えにくくなります。
また、データの多くは横断調査(異なる人たちを同じ時点で比べる調査)です。
同じ人を何十年も追跡した結果ではないため、個人の痛みが年齢とともにどう変わるかを直接示したわけではありません。

調査は本人の申告に基づき、質問方法や思い出して答える期間も元の調査ごとに違います。
共通の定義へそろえる処理は比較を助けますが、測定の差を完全には消せません。
国ごとの差を、そのまま医療へのアクセスや身体的な健康差だけで説明することもできません。
社会的な負担、働き方、質問への答え方などが重なる余地があります。

年齢別の平均を、現場の計画にどう使うか

基準曲線は支援の優先順位を考える材料になりますが、個人の診断や将来予測にはそのまま使えません。

自治体や医療機関が相談体制を設計するとき、痛みの訴えを総件数だけで追うと、必要な診療科や支援の種類が分かりにくくなります。
腰・股関節・膝の痛みと頭痛では、年齢による曲線も対応するサービスも異なります。
部位、年齢、性別を分けて記録すれば、どの人にどの支援が届いていないのかを見つけやすくなります。

企業の健康管理でも、「中高年は痛みが多い」とだけ置いた対策では対象を絞れません。
職務別の負担や休業の理由を分け、腰や肩の不調が増える時期と、頭痛など別の訴えが増える時期を区別できます。
ただし、この研究は国際データの平均像であり、日本の特定職場に同じ割合が当てはまると示したものではありません。
自社の記録と比べてから施策を決める必要があります。

見立てと監視ポイント

今後は三つの点を追うと、曲線を実務に結び付けやすくなります。
第一に、地域と部位ごとに同じ質問基準を使う調査が増えるか。
第二に、HDIによる差が医療アクセス、仕事、所得などを分けても残るか。
第三に、同じ人を継続して追う調査が、年齢別の平均曲線と個人の変化のどこが違うかを明らかにするかです。

研究の規模だけで結論の確かさを測るのではなく、地域ごとの調査の薄さや質問の違いも合わせて見ます。
データが増えれば曲線を更新できますが、過去の調査に含まれない集団は、人数を足すだけでは現れません。
次の更新で調査対象の偏りと地域差がどこまで埋まるかが、この基準線の使いやすさを左右します。

腹落ち確認の問い

筋骨格系の痛みは20〜55歳で増える速さが大きいという結果から、「55歳を過ぎると痛みが減る」と読んでよいでしょうか。

考え方

そうは読めません。
上昇が速い年齢帯と、割合のピークは別です。
研究では背中・股関節・膝などの痛みは75歳以降まで増え、ピークも高齢層にあります。
さらに多くは横断調査なので、異なる人たちの年齢別の平均を、同じ人の一生の変化とみなすこともできません。

出典

もっと詳しく知りたい人へ