📚 業界ナレッジ

企業が払うサービス代は3.6%高、船賃を抜けば3.1% — 日銀が9月の利上げを決める前に見る「もう一つの物価」

深堀FP&A2026-08-27

【政治・金融政策】連載・FP&A【経済・外航海運】【国際・通商】

#日銀#企業向けサービス価格指数#SPPI#インフレ#金融政策#利上げ#外航海運#海上運賃#リース#販管費

目次
  1. 何が公表されたのか
  2. 0.5ポイントの正体
  3. 運賃の陰に隠れた11.6%
  4. この数字を来期の予算に置くなら
  5. 見立てと監視ポイント
  6. 腹落ち確認の問い
  7. 関連リンク

企業が払うサービス代は3.6%高、船賃を抜けば3.1% — 日銀が9月の利上げを決める前に見る「もう一つの物価」

2026年7月の企業向けサービス価格指数の読み方を一本の因果で示す概要図。出発点の変化として、2026年8月26日に日本銀行が公表した7月の企業向けサービス価格指数の総平均が前年比プラス3.6%となり、市場予想のプラス3.2%を上回ったこと。ところが日銀が同じ資料で並記している参考系列、総平均から国際運輸を除いた指数は前年比プラス3.1%にとどまり、0.5ポイントの差が開いていること。原因として、中東情勢とホルムズ海峡をめぐる緊張で海上運賃が急騰し、外航貨物輸送の価格指数が前年比プラス67.4%、前月比でもプラス11.4%と上昇していること、この項目は日本国内のサービス需給とは無関係に外から決まる価格であること。根拠数値として、総平均の指数が115.1で前年比プラス3.6%であること、除く国際運輸が114.2で前年比プラス3.1%であること、大類別で最も寄与が大きいのが運輸・郵便のプラス1.06ポイントで、次いでリース・レンタルのプラス0.68ポイントであることの3点を示す。一文の結論として、見出しの数字は外から来た運賃で膨らんでおり、日銀が9月の利上げを判断する材料は3.6%ではなく3.1%の側にある、と着地させる図

同じ資料のなかに、答えが二つ並んでいることがあります。

2026年8月26日の朝、日本銀行が7月の企業向けサービス価格指数を公表しました。総平均は前年比3.6%の上昇。市場が見込んでいた3.2%を上回る数字です。

ところが同じ紙面には、もう一つの数字が「(参考)」と添えられています。総平均から国際運輸を除いたもの——こちらは3.1%です。0.5ポイントの差が、注釈のように並んでいます。

この差がどこから来たのかを追うと、日本の物価の話が、途中で日本の外へ出ていきます。

何が公表されたのか

企業向けサービス価格指数(SPPI)は、企業が企業に対して提供するサービスの値段を測る統計です。
消費者物価指数が家計の買い物の値段を測るのに対して、こちらは運送料、リース料、広告費、システム開発費、テナント賃料といった、会社が会社に払うお金の値動きを追います。

7月分の中身は次のとおりでした。

系列・大類別 指数(2020年平均=100) 前年比 前年比への寄与度
総平均 115.1 +3.6%
総平均(除く国際運輸) 114.2 +3.1%
運輸・郵便 +6.4% +1.06pt
リース・レンタル +11.6% +0.68pt
不動産 +2.2% +0.20pt
金融・保険 +1.3% +0.06pt
広告 −1.6%

総平均は前月比でも0.4%上がっています。値上げが一巡して落ち着いた、という局面ではありません。

そして目を引くのが、大類別のさらに下にある一項目です。外航貨物輸送の価格指数は259.5。2020年の水準の2.6倍で、前年比では67.4%、前月比だけでも11.4%上がっています。

0.5ポイントの正体

なぜ日銀は「除く国際運輸」という参考系列をわざわざ並べているのか。ここに統計の設計思想が表れています。

国際運輸の価格は、日本の国内でサービスの需給が締まったから上がるわけではありません。
船が通れる航路がどれだけあるか、燃料がいくらか、世界のどこかで紛争が起きているか——そうした外側の事情で決まります。
2026年に入ってからの海上運賃の急騰は、中東情勢とホルムズ海峡をめぐる緊張が背景にあります。

つまりこの項目は、日本国内の物価が上がっているのか下がっているのかを判断する材料としては、雑音になりやすい。
だから日銀は、見出しの数字と一緒に、それを取り除いた数字も出しています。
「基調はこちらで見てください」という但し書きが、統計そのものに埋め込まれているわけです。

企業向けサービス価格指数の見出しの数字と基調の数字がなぜ食い違うのかを説明する図。問いとして、同じ統計のなかに3.6%と3.1%という二つの答えが並んでいるのはなぜかを置く。仕組みの層では三段で示す。第一に、企業向けサービス価格指数は企業が企業に払うサービス代金を測る統計であり、そのなかには国内のサービス需給で決まる価格と、日本の外側の事情で決まる価格が混在していること。第二に、国際運輸の価格は航路の状況、燃料価格、地政学的な緊張といった国外要因で動くため、国内の物価基調を測る材料としては雑音になりやすいこと、実際に外航貨物輸送の指数は259.5で前年比プラス67.4%と突出していること。第三に、そのため日銀は総平均と並べて総平均から国際運輸を除いた参考系列を同じ資料に掲載しており、見出しの3.6%と基調の3.1%の差0.5ポイントがここから生じていること。一文の答えとして、見出しの数字には外から来た運賃が乗っており、金融政策が反応すべき相手は基調の側である、と結ぶ図

見落とされやすいのは、この参考系列を作ってもなお3.1%が残っているという点です。
運賃を全部取り除いても、企業間のサービス価格は3%台で上がり続けている。
金融政策の観点で本当に重い数字は、こちらのほうです。

運賃の陰に隠れた11.6%

運輸に目を奪われていると、もう一つの大きな動きを取り逃がします。

リース・レンタルの前年比11.6%です。寄与度は0.68ポイントで、運輸・郵便に次ぐ2番目の押し上げ要因になっています。国内の需給で決まる項目としては、突出した上昇率です。

日銀の公表資料は品目ごとの前年比を示すだけで、なぜ上がったかの分解までは示しません。
ここから先は解釈になりますが、リース料は機械や車両や情報機器を貸し出す値段であり、貸す側の元手は調達コストと金利で決まります。
設備の価格が上がり、金利が付く世界に戻れば、リース料は遅れて上がってくる。
政策金利が1.0%という水準にある局面で、この項目が2桁で伸びていることは、金利の上昇が企業間の取引価格に回り始めた形跡と読めます。

一方で広告は−1.6%と、下がっています。
企業が真っ先に削るのは広告費だという古い経験則が、そのまま数字に出ている格好です。
運賃とリース料が上がり、広告が下がる。
この組み合わせは、企業が「削れないコスト」を飲まされ、「削れるコスト」を削っている姿に見えます。

この数字を来期の予算に置くなら

会社の側に引き寄せると、3.1%という数字の意味がはっきりします。

来期の販管費を組むとき、外部に払うサービス代を前年並みで置いていたら、それだけで3%分の見込み違いが生まれます。
売上高販管費率が仮に20%の会社なら、そのうち外部委託・物流・リース・賃料に払う部分は決して小さくない。
ここが3%上がる前提を置き直すだけで、営業利益の計画は目に見えて動きます。

厄介なのは、上がり方が一様ではないことです。
広告は下がり、リースは11.6%上がっている。
費目を一律に「3%増」で置くと、リースを大幅に過小に見積もり、広告を過大に見積もることになります。
契約更改の時期が来る費目を洗い出し、そこだけ個別に置き直すほうが実態に合います。
特にリース契約は数年単位で固定されるため、更改のタイミングでいちどに上がる。
平均の上昇率を12で割って毎月足していくやり方では、この段差を捉えられません。

輸入に頼る会社では、運賃の話が別の顔で戻ってきます。
外航貨物輸送が前年比で67%上がっているということは、輸入原価に載る物流費がそれだけ膨らむということです。
ただしこれは為替や商品市況と同じ性質の変数で、自社の努力では動かせません。
動かせないものは、感度として持っておくしかない。
運賃が現在の水準からさらに2割上がったら、あるいは中東情勢が落ち着いて半分に戻ったら、輸入原価がどこまで振れるか——この幅を先に置いておくと、期中に慌てずに済みます。

そして値上げ交渉の材料としても、この統計は使えます。
取引先から運送料やリース料の値上げを打診されたとき、SPPIの品目別の数字は「相場が上がっているのか、この会社が上げたいだけなのか」を切り分ける物差しになります。
広告費のように相場が下がっている費目で値上げを求められているなら、そこは交渉の余地がある。
逆に外航運賃のように相場が67%動いている費目で粘っても、時間を使うだけです。

見立てと監視ポイント

日銀は9月17〜18日に次の金融政策決定会合を控えています。その手前で、この統計はどう効くのか。3点を見ています。

1. 除く国際運輸が3%を割るかどうか
見出しの3.6%は運賃で膨らんでおり、政策判断の材料としては3.1%の側が本命です。
この参考系列が3%台を維持し続けるなら、サービス価格の上昇は外的要因では説明しきれない段階に入っています。
逆に2%台へ沈み始めれば、見出しが高いままでも基調は緩んでいることになります。

2. リース・レンタルが続くか折れるか
11.6%という伸びが一時的な契約更改の集中なのか、金利上昇の転嫁が定着したのかは、あと数か月の推移で分かれます。
国内要因でこれだけ上がる項目が定着するなら、金利を上げても物価が落ち着かないという厄介な組み合わせに近づきます。

3. 8月27日の氷見野副総裁の発言
日銀の氷見野良三副総裁が本日、埼玉県金融経済懇談会で挨拶し、午後に記者会見を行う予定です。
会合直前に副総裁が地方で講演する場は、政策の方向感が示される場として扱われてきました。
前日に出たこの統計をどう位置づけるか——見出しの3.6%を引くのか、基調の3.1%を引くのか——は、9月の判断を測る手がかりになります。

腹落ち確認の問い

問い

日銀は総平均という見出しの数字を出しながら、同じ資料に「国際運輸を除く」という参考系列も並べています。
それなら最初から、雑音の少ない参考系列だけを公表すればよさそうにも思えます。
なぜ両方を出す必要があるのでしょうか。

考え方

除いた数字だけを出すと、統計が「何を除くか」を決める権限を持ってしまうからです。

企業が実際に払っている金額は、総平均のほうです。
輸入品を運ぶ会社にとって、運賃が67%上がったことは雑音ではなく、そのまま損益を削る現実です。
基調を測る目的では邪魔でも、負担を測る目的では中心にある。
どちらか一方を消すと、もう一方の目的に使えない統計になります。

もう一つは、除外の線引きが常に正しいとは限らないからです。
今回の運賃高騰は外的な要因だと整理できますが、それが長引いて国内のサービス価格に転嫁されていけば、いつかは基調の一部になります。
統計が最初から除いてしまうと、その移り変わりが見えません。
両方を並べ、差が広がっているのか縮んでいるのかを読ませる形にしておけば、外から来たものが内側に染み込む過程を追えます。

会社の管理会計でも同じことが起きます。
為替や原材料の影響を除いた実質ベースの数字は、現場の努力を測るには適しています。
ただしそれだけを見ていると、実際に減った利益が誰の目にも入らなくなる。
除いた数字と除かない数字を並べて置き、差そのものを議論の対象にする——日銀の資料の作りは、その作法の見本になっています。

関連リンク

出典(一次/二次の切り分け)

一次で照合したもの

  • 日本銀行 調査統計局『企業向けサービス価格指数(2026年7月速報)』2026年8月26日8時50分公表 — 総平均の指数115.1・前年比プラス3.6%・前月比プラス0.4%、総平均(除く国際運輸)の指数114.2・前年比プラス3.1%・前月比プラス0.3%、外航貨物輸送の指数259.5・前年比プラス67.4%・前月比プラス11.4%、大類別の前年比(運輸・郵便プラス6.4%、リース・レンタルプラス11.6%、不動産プラス2.2%、金融・保険プラス1.3%、広告マイナス1.6%)および寄与度(運輸・郵便プラス1.06ポイント、リース・レンタルプラス0.68ポイント、不動産プラス0.20ポイント、金融・保険プラス0.06ポイント)。PDFのテキスト層を直接抽出できなかったためJina Reader経由で設問を変えて2回取得し、両回の一致を確認した。
  • 日本銀行『講演・記者会見』の予定欄 — 氷見野良三副総裁が2026年8月27日に埼玉県金融経済懇談会で挨拶し、午後2時から記者会見を行う予定であること。

二次で確認したもの

  • ロイター配信記事 — 総平均プラス3.6%および除く国際運輸プラス3.1%の再確認。
  • トレーダーズ・ウェブ — 市場予想がプラス3.2%であったこと。
  • ジェトロ ビジネス短信 — 海上運賃・航空貨物運賃の上昇に中東情勢が影響していること。

確認できなかったもの

  • 外航貨物輸送の内訳(外航タンカー、外航コンテナ等)の個別数値。PDFからの機械抽出が大類別の数値と混線したため、内訳には踏み込んでいない。
  • 情報通信の前年比。抽出2回で符号が食い違ったため本文では扱っていない。
  • 6月分の確報値。速報値と改定値で食い違う資料があり、前月との比較は用いていない。
  • 金利先物から逆算した9月会合の利上げ織り込み確率。一次でも独立した二次でも確認できなかったため記載していない。