📚 業界ノート

センコーグループホールディングス株式会社

【経済・陸運業】陸運業企業バリュエーション分析更新 2026-10-07

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目次
  1. 1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か
  2. 制度変更と運営条件
  3. 2. 財務の実力 — 増収と投資負担を併せて読む
  4. 3. 市場評価を読む — バリュエーション
  5. 4. 同業比較 — 差分の論点
  6. 5. リスクと論点
  7. バリュートラップを点検する
  8. 6. バリュエーション統合と論点整理
  9. 乖離の構造
  10. 条件分岐シナリオ
  11. 監視ポイント
  12. M&A・出資の論点
  13. 7. 学びのポイント
  14. 📚 着眼点 1: 拠点投資はEBITDAとキャッシュ支出を並べて読む
  15. 📚 着眼点 2: 売上成長が資本効率へ届く経路を分解する
  16. 📚 着眼点 3: センコーの指標ポジショニング
  17. 参考情報

センコーグループホールディングス株式会社(9069)銘柄分析レポート

SUMMARY

何で稼ぐ会社か: 物流・倉庫・構内作業を軸に商事や生活支援なども展開し、FY2026/3は物流が売上の63.85%を占めた。
財務の要点: FY2026/3は売上8,996億円、営業利益370億円、ROE8.7%で増収増益だったが、単純FCFは5期連続マイナス。
分析上の最大論点: 拠点投資とM&Aを利益・キャッシュ回収につなげてROE10%目標へ近づけるかであり、市場値は2026-03-31期末スナップショットに限られる。

1. 事業構造 — 何で稼ぐ会社か

陸運業全体の構造は陸運業業界基礎ガイドおよび陸運業のセグメント分析・プレイヤー比較を参照する。本章ではセンコーグループ固有の収益構造を扱う。

収益の中心は、輸送・保管から構内作業までを束ねる物流である。 センコーグループはトラック・鉄道・海上輸送、フォワーディング、倉庫、荷役、工場構内業務を組み合わせ、荷主企業の物流工程を受託する。
FY2026/3末のグループ従業員数は27,835人、複合型物流拠点は428か所だった。FY2026/3有価証券報告書

FY2026/3の物流セグメントは売上5,744億円、構成比63.85%、営業利益341億円、利益率5.93%。
商事・貿易は売上1,930億円で構成比21.45%、利益率1.90%だった。
ライフサポート、プロダクト、ビジネスサポートも運営し、物流を主力にしながら周辺事業を組み合わせる。

セグメント FY2026/3売上(億円) 構成比 FY2026/3営業利益(億円) 利益率
物流 5,744.2 63.85% 340.6 5.93%
商事・貿易 1,929.5 21.45% 36.7 1.90%
ライフサポート 685.0 7.61% 18.8 2.74%
プロダクト 457.6 5.09% 6.6 1.45%
ビジネスサポート 175.6 1.95% 27.3 15.54%

出典: FY2026/3有報のセグメント情報。表示構成比は有報開示値を転記。セグメント売上高合計と連結売上には4.2億円の差があり、利益も全社費用・消去等の調整前後で一致しない。

売上は輸送量、保管面積・稼働率、荷役量、契約単価、顧客の生産・販売で動く。
顧客別売上、数量・単価寄与、固定費・変動費比率は未開示で、顧客集中度と損益分岐点は定量評価できない。
主なコスト感応項目は労務費、協力会社への運送委託費、燃料費、施設賃料・減価償却費とみられる。

FY2026/3は5期計画の4年目で、会社が掲げるROE10%以上に対して実績は8.7%とFY2025/3から0.7ポイント低下した。
全国の拠点・輸送網を活用し、新拠点「TSUNAGU STATION」などを整備した。
同年度はPDS International(インド)、Total Fresh Connection(シンガポール)、丸運(重工・石油関連)、Verite、東邦警備保障などの取得・出資も進めた。
顧客の工程に長く組み込まれる運営基盤は強みとなる一方、拠点稼働率、契約採算、人材確保、買収後の統合が利益の持続性を左右する。

運転資本はFY2026/3末残高を使った簡便計算でCCC約30.0日。
売上債権日数47.8日、棚卸資産日数13.4日、仕入債務日数31.2日だった。
設備取得支出は416億円、減価償却費は325億円で、設備の更新・成長投資負担も大きい。
比喩でいえば単独の倉庫ではなく、結節点が連なる配送網として顧客工程を支える事業であり、ネットワークの稼働率と契約採算が重要になる。

制度変更と運営条件

物流効率化法は荷主・物流事業者等の努力義務が2025-04-01施行。
一定規模以上の特定事業者への計画・定期報告等と荷主のCLO選任は2026-04-01に施行された。
荷待ち・荷役削減、積載効率向上を促し、センコーの指定・適用は未確認。国土交通省・物流効率化法

改正貨物自動車運送事業法では2025-04-01、対象トラック事業者等へ書面交付・健全化措置・実運送体制管理簿を導入。
2026-04-01には書面交付・管理簿を貨物利用運送事業者へ拡大し、白トラ利用荷主等を処罰対象に追加した。
トラック・利用運送事業者には委託段階を2次までとする努力義務も加わった。
会社の委託構造・対応費用は未開示。国土交通省・2025-04-01施行分、2026-04-01施行分

2. 財務の実力 — 増収と投資負担を併せて読む

売上は伸びたが、投資支出が営業キャッシュを上回り、単純FCFは5期連続赤字。 5期売上CAGRは9.6%、営業利益率はFY2023/3の3.67%からFY2026/3の4.11%へ上昇した。
投資後の資金回収が焦点となる。

指標 FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3 FY2027/3会社予想
売上高(億円) 6,231.4 6,962.9 7,783.7 8,545.5 8,996.2 10,200.0
売上高前年比 — +11.7% +11.8% +9.8% +5.3% +13.4%
営業利益(億円) 247.7 255.4 299.1 349.5 370.0 430.0
営業利益率 3.98% 3.67% 3.84% 4.09% 4.11% 4.22%
純利益(億円) 152.3 153.4 159.4 186.1 193.2 234.0
総資産(億円) 4,808.2 5,818.5 6,861.4 7,187.4 8,220.2 —
流動資産(億円) 1,710.3 2,017.7 2,398.7 2,292.3 2,694.3 —
負債合計(億円) 3,199.6 4,027.5 4,815.8 4,755.2 5,578.4 —
純資産(億円、非支配株主持分を含む) 1,608.5 1,791.0 2,045.6 2,432.2 2,641.8 —
自己資本比率 30.5% 27.6% 26.1% 30.2% 27.6% —
営業CF(億円) 318.9 476.9 512.1 447.2 611.2 —
投資CF(億円) -461.4 -523.2 -624.9 -580.2 -618.6 —
財務CF(億円) 57.7 177.3 331.6 4.5 212.2 —
単純FCF(営業CF+投資CF、億円) -142.6 -46.3 -112.8 -133.0 -7.4 —
減価償却費(億円) 198.2 224.3 264.4 301.4 325.3 —
設備取得支出(億円) 310.4 357.1 502.1 565.9 416.4 —
確認済み科目の暫定NC額/時価総額比(億円/%) -1,208.9 / -85.7% -1,486.9 / -100.2% -1,758.8 / -97.6% -1,994.5 / -75.3% -2,434.8 / -77.2% —
広義NCAV/時価総額比(億円/%) -1,363.6 / -96.6% -1,868.0 / -125.9% -2,261.2 / -125.5% -2,273.7 / -85.8% -2,647.4 / -83.9% —

出典: EDINET DB 5期財務、FY2027/3予想は2026-08-12 Q1。
金額は百万円÷100で億円表示。
NC/NCAVは期末残高・時価総額の派生値(欠測条件は第3章)。
FY2026/3売上・営業利益・純利益は+5.3%・+5.9%・+3.8%、FY2027/3会社計画は+13.4%・+16.2%・+21.1%。

2026-08-12公表のFY2027/3 Q1は売上2,487億円、営業利益107億円、純利益64億円で、FY2026/3 Q1同期比14.4%・22.9%・28.0%増。
会社は通期計画を維持した。
季節性等を含む着地は上期・下期で確認する。
FY2027/3予想EPS139.69円と配当56円から算出する配当性向は約40.1%。FY2027/3 Q1決算資料

FY2026/3は営業CF611億円・投資CF619億円・単純FCFマイナス7億円。
営業CFは5期黒字でも、投資CFが上回りFCFは5期赤字。
設備取得支出416億円は減価償却費325億円の1.28倍。
投資CFには買収等も含むため、EBITDAだけでなく設備支出とキャッシュ回収を追う。

指標・健全性チェック FY2026/3の値 業界目安・確認基準 判定・読み方
ROE 8.7% 8%が一般的な目安 ✅ 目安超、会社目標10%には未達
営業利益率 4.11% 陸運業比較資産のFY2025平均3.85% ✅ 参考平均を上回る。年度差あり
自己資本比率 27.6% 事業会社の参考基準40%超 ❌ 基準未満
現預金と抽出済み有利子負債 894億円 対 3,328億円 有利子負債<現預金 ❌ 借入・社債が上回る。負債区分に一部欠測
流動比率 同一範囲の流動負債が未確認 150%超 — 判定材料なし
利益剰余金 1,339億円 正 ✅ 正
営業CF 5期連続黒字 3期連続黒字 ✅ 達成
単純FCF 5期連続赤字 複数期の黒字化 ❌ 投資支出を営業CFで賄えていない
配当継続 FY2026/3実績50円、FY2027/3予想56円 3期連続支払い — 5期履歴を同一定義で照合できず
EPS前年差 FY2026/3は113.68円 前年比プラス — 過年度の同一定義データ不足

自己資本比率はEDINET表示値を使い、連結純資産に含まれる非支配株主持分と区別した。
FY2026/3の親会社持分は純資産2,641.8億円から非支配株主持分366.4億円を差し引いた2,275.4億円。
これを総資産で割った比率は27.68%で、表示自己資本比率27.6%と整合する。
公表ROE8.7%と、純利益193.2億円÷親会社持分2,275.4億円で得る単純値8.49%には定義差があるため、ROEは会社開示値を採用した。
健全性スコア65/100(B)は補助指標で、個別チェックを置き換えない。

FY2026/3の売上債権・棚卸資産・仕入債務の期末残高を使用すると、売上債権日数は1,177.7÷8,996.2×365=47.8日、棚卸資産日数は275.9÷売上原価7,532.96×365=13.4日、仕入債務日数は643.5÷売上原価7,532.96×365=31.2日となる。
CCCは47.8+13.4−31.2=30.0日。
FY2025/3は28.6日で、いずれも平均残高ではなく期末残高による簡便法である。
受注残高は受注型製造業の先行指標に当たるため、本業の分析対象としては該当しない。
過去3期の会社予想と実績を同一定義で照合できる資料は得られず、予想精度は評価しない。

3. 市場評価を読む — バリュエーション

市場値はFY2026/3期末のスナップショットに限られ、報告日現在の価格ではない。 価格取得に失敗し、時価総額315,369百万円をEDINET期末値で代用した(株価取得日: 2026-03-31)。
発行済株式175,692,457株から逆算した期末価格は約1,795円。
FY2027/3会社予想PERは3,153.7億円÷純利益234億円=13.48倍で、EPS139.69円との積1,883円は逆算値との差約4.9%。
PBR1.32246倍×BPS1,357.32円も約1,795円となる。
倍率・利回りは期末基準。

指標・計算要素 FY2025/3・2025-03-31 FY2026/3・2026-03-31 定義・留保
時価総額(億円) 2,648.8 3,153.7 EDINET期末スナップショット
現預金(億円) 673.1 893.6 連結BS
抽出済み有利子負債(億円) 2,667.6 3,328.4 短期・長期借入金、社債の取得分
確認済み科目の差額(億円) -1,994.5 -2,434.8 現預金−抽出済み負債。短期有価証券等は未取得
差額÷時価総額 -75.3% -77.2% 標準NC比率の代替ではなく暫定比率
広義NCAV(億円) -2,273.7 -2,647.4 流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計
広義NCAV÷時価総額 -85.8% -83.9% 広義NCAV比率
FY2026/3 EBITDA(億円) — 695.3 営業利益369.96億円+減価償却費325.29億円
暫定EV/EBITDA — 8.04倍 EV=時価総額−確認済み科目の差額
FY2027/3予想PER — 13.48倍 会社予想純利益234億円を使用
CN-PER — 23.9倍 予想PER×(1−暫定NC比率)
広義NCAVベースCN-PER — 24.8倍 同じ式の標準NCを広義NCAV比率に置換

標準NCは現預金+短期有価証券−有利子負債(短期借入金+1年内返済予定長期借入金+長期借入金+社債。リース除外)。
FY2026/3は短期有価証券と一部流動区分が未取得で、表は確認済み科目差額にとどまる。
未取得証券は差額を増やし、流動借入区分は減らす可能性があり、純影響は不明。

広義NCAV=流動資産+投資有価証券×0.7−負債合計。第2章の5期推移は負値が続き、FY2026/3も純現金余剰ではない。

CN-PERは予想PER×(1−NC比率)、または(時価総額−NC)÷予想純利益で計算する。
暫定NCベースで23.9倍、広義NCAVベースで24.8倍となる。
時価総額÷純利益の単純PERより高く、負債負担を加味すると事業価値側の倍率が上がる。
ただしNCの科目欠測が残るため、倍率も暫定値として読む。
営業利益+減価償却費で計算したEBITDAは設備投資を控除しない指標であるため、FCF赤字と合わせて解釈する。

倍率ベース感応度 参照レンジ 根拠
PER・下側 8.6〜10倍 FY2022/3実績8.63倍が自社5期レンジ下端。10倍は比較用の参照点
PER・中央 12.7倍 陸運業中央値12.66倍(2026-10-07表示)
PER・上側 15.8倍 FY2026/3期末実績15.79倍が自社5期レンジ上端
EV/EBITDA 6.6〜8.7倍 選定競合2社の期末比較。陸運業中央値8.69倍も参考
全上場EV/EBITDA中央値 7.40倍 各社の最新有報期末値の分布、対象の期末倍率とは時点差あり

いずれも倍率の比較軸であり、円建ての理論値へ換算しない。
自社PERのFY2022/3〜FY2026/3実績レンジは8.63〜15.79倍。
会社計画を使ったFY2027/3予想PER13.48倍はこの範囲内だが、計画利益と実績利益の分母差がある。
WACC、永久成長率、予測5期FCFを一貫した根拠で置けないためDCF評価は掲載しない。

4. 同業比較 — 差分の論点

営業利益率は陸運業比較資産の平均を上回るが、選定2社よりROEと自己資本比率が低い。 センコーは全国の複合物流網と周辺事業を持つ。
SGホールディングスは宅配便・法人物流の規模がより大きく、SBSホールディングスは3PL・物流施設運営とM&Aを組み合わせるため、いずれも規模・資本構成の参考になる。
時価総額レンジは対象の0.3〜5倍に入る企業を選び、同じ「陸運業」分類だけで事業の同質性を仮定しない。

指標 センコー 9069 SG HD 9143 SBS HD 2384
最新決算期 FY2026/3 FY2026/3 FY2025/12
時価総額(億円) 3,153.7 9,467.9 1,496.6
売上高(億円) 8,996.2 16,447.6 4,903.4
営業利益率 4.11% 5.49% 4.34%
自己資本比率 27.6% 44.4% 27.9%
PER 13.48倍(FY2027/3予想) 15.06倍(FY2026/3期末) 12.70倍(FY2025/12期末)
PBR 1.32倍 1.62倍 1.55倍
ROE 8.7% 10.5% 12.7%
配当利回り 2.79%(FY2026/3実績) 3.59% 2.39%
確認済み科目NC比率 -77.2%(暫定) -27.1% -50.7%
EV/EBITDA 8.04倍(暫定) 8.74倍 6.64倍

出典: センコーFY2026/3有報・EDINET期末値、SG HD FY2026/3有報、SBS HD FY2025/12有報。
EV/EBITDAは(時価総額−現預金+有利子負債)÷(営業利益+減価償却費)で再計算し、リース負債は除外。
対象・SGはFY2026/3、SBSはFY2025/12。
対象NCは短期有価証券等に欠測がある。
競合NC・EV/EBITDAも取得できた財務範囲で計算し、時点・会計定義が完全一致する市場比較ではない。

センコーの営業利益率はFY2026/3に4.11%で、陸運関連8社のFY2025比較資産にある平均3.85%を上回ったが、SGの5.49%には届かない。
ROEも対象8.7%に対しSG10.5%、SBS12.7%で、利益率や資産回転の差を伴う。
PERは対象だけ会社予想利益ベースであり、二社の実績PERと単純に優劣を比べない。
SBSは決算期が3か月異なり、運賃・燃料・賃金環境も期中で動く。

同業差は規模だけで説明できない。
SGは対象より売上・時価総額が大きく、自己資本比率も高い。
SBSは自己資本比率が対象と近い一方、期末ROEは高い。
センコーは商事・生活支援等も持つため、物流セグメント利益率と連結利益率を分けて読む。
NC・EV/EBITDAはリースを除く簡易定義で、資産範囲と投資負担の差が残る。

5. リスクと論点

最大の圧力は、人手不足・賃金上昇・委託運送費の転嫁遅れである。

リスク要因 影響度 発生可能性 シナリオ 開示された対応・確認事項
人手不足・賃金・外注運送費 高 高 採用難や委託単価上昇を荷主契約へ転嫁できず、輸送・構内作業の利益率が低下する 省人化・拠点効率化を進めるが、賃上げ吸収額と転嫁率は未開示
燃料・金利の上昇 高 中 燃料価格が運送費を押し上げ、借入コスト上昇が設備投資後の資金余力を狭める 価格転嫁と負債管理が論点。金利感応度・ヘッジ額は取得資料で未確認
M&Aの統合・のれん減損 高 中 買収先の採算未達や統合遅延、簿外債務により追加費用・減損が生じる FY2026/3のれん223.7億円、減損損失35.1億円。案件別回収状況は未開示
拠点投資と需要変動 中〜高 中 新施設の稼働が計画に届かず、固定費・減価償却費が先行してFCF赤字が続く 拠点展開・輸送効率化を継続。拠点別稼働率・回収期間は未開示
事故・サイバー・災害 高 中 事故やシステム停止、自然災害が物流網を止め、顧客操業・復旧・賠償に影響する 有報記載のリスク。BCP・対策の実効性を具体的事故件数や損失額と併せて確認
賃金・協力運送費・燃料費が同時に上昇し、荷主への転嫁が遅れる場合、FY2026/3営業利益率4.11%を起点にした利益率低下が懸念点となる。

バリュートラップを点検する

バリュートラップを点検する

FY2026/3の標準NC確認済み科目の差額はマイナス2,434.8億円、広義NCAVはマイナス2,647.4億円で、ネットキャッシュの厚さを理由とした値付けの説明はできない。
NCは短期有価証券・一部流動区分が欠測しているため暫定値だが、抽出済みの借入・社債だけでも現預金を大きく上回る。

PBR1.32倍、ROE8.7%は会社目標10%を下回り、設備取得支出は減価償却を上回る。
5期連続の単純FCF赤字も投資回収の確認が必要な理由となる。
資本効率改善の鍵は配当だけではなく、拠点稼働、投資後利益、買収先の利益・キャッシュ寄与、負債水準の変化にある。
2026-07-31提出の大量保有報告ではNAVF関連の保有合計12.74%が記載されたが、株主提案の議決結果は取得資料で確認できず、FY2026/3有報の大株主順位とは基準日が異なる。

6. バリュエーション統合と論点整理

乖離の構造

値付けの持続性を決める焦点は、売上成長がROEとキャッシュ回収へ届くかである。 FY2026/3期末スナップショットの時価総額は3,153.7億円、PBR1.32倍、FY2027/3計画利益ベースの予想PERは13.48倍、確認済み科目による暫定EV/EBITDAは8.04倍。
2026-10-07の現値は未取得であり、これらを報告日現在の市場評価と解釈できない。

FY2022/3〜FY2026/3売上CAGR9.6%とFY2027/3計画の増益は成長材料だが、利益率4.11%、ROE8.7%、5期連続の単純FCF赤字は、投資採算を確認する理由にもなる。
PERは過去5期実績レンジ8.63〜15.79倍の内側にあり、FY2027/3計画ベースで陸運業中央値12.66倍に近い。
ただし対象のPERは会社予想利益、全上場・業種中央値と同業PERは有報期末実績で、分母の時点が一致しない。
低倍率だけから割安放置と決めず、ROE目標達成と投資後のキャッシュ回収で評価の理由を見分ける。

条件分岐シナリオ

上方条件

ROEが会社目標10%以上へ近づき、営業利益率の改善と設備投資回収によりFCFが黒字化する場合、資本効率・利益持続性を重視した評価が説明しやすくなる。
拠点稼働率、契約採算、買収先利益、投資後の営業CFが確認点となる。

基準条件

FY2027/3会社計画(売上1兆200億円、営業利益430億円、純利益234億円)に沿い利益率が約4.2%へ小幅改善する場合、予想PER13.48倍と陸運業中央値12.66倍付近の比較が主な参照軸となる。
計画達成後もROE10%目標とFCF黒字化が論点として残る。

下方条件

人件費・委託費・燃料費の上昇を転嫁できず営業利益率がFY2026/3の4.11%を下回る、または買収後の減損が続きFCF赤字が残る場合、自社PER履歴の下側や選定同業の低いEV/EBITDAレンジを参照する評価に変わり得る。
借入返済と拠点稼働が反証材料となる。

監視ポイント

時期 イベント 開示で確認する点
2026-09-30 FY2027/3上期末 物流・商事別売上、営業利益率、季節性、一時費用
2026-11-13頃(±6日、予測) FY2027/3 Q2決算予想日 Q2累計実績、通期予想の維持・変更、計画進捗
2026-12-31 FY2027/3 Q3期間末 設備・M&A後の営業CF、借入金とのれんの変化
2027-02-12頃(±6日、予測) FY2027/3 Q3決算予想日 通期計画に必要なQ4利益、利益率、減損
2027-03-29 FY2027/3期末配当の権利付き最終日(暦日推定) 年間配当予想の維持、会社公告との一致
2027-03-31 FY2027/3期末・配当基準日 運転資本、設備投資、純有利子負債、ROE
2027-05-14頃(未公表の推定日) FY2027/3通期決算の想定時期 通期着地、FY2028/3会社予想、配当、ROE目標
2027-06-25頃(未公表の推定日) FY2027/3定時株主総会の想定時期 資本コスト対応、取締役構成、株主提案と議決結果

11月・2月の決算日はEDINET DB決算カレンダーによる予測で、会社確定日ではない。
権利付き最終日は2027-03-31(水)の2営業日前として暦から計算した。
5月・6月はFY2026/3の通期決算公表日2026-05-13と同年度に係る定時株主総会日2026-06-25を基にした推定で、公式日程は未公表。IRカレンダー

M&A・出資の論点

買い手が許容する企業価値は、営業CFから維持更新投資・成長投資を差し引いた後の資金、負債とリースの扱い、既存のれん223.7億円、減損履歴、買収先が利益と運転資本へ与える効果で制約される。
EBITDAは減価償却を足し戻す一方で設備投資を控除しないため、設備取得支出416億円と単純FCF赤字を併せて見る。

センコーの拠点網・輸送機能と買収先の地域・業種・倉庫稼働を結べれば、共同輸送や拠点相互利用の余地がある。
反対に、国をまたぐ運営・IT統合、顧客契約・許認可の継承、人材確保、品質基準の違いは統合費用になりうる。
案件検討では、顧客集中、委託先債務、労務・賃貸借・環境・事故責任、税務・偶発債務、キー人材の定着、拠点別稼働率、のれんの回収可能性を確認する。
開示資料だけでは、取得先別のシナジー実績は判定できない。

7. 学びのポイント

分析の順序は「利益→投資→キャッシュ」

EBITDAの比較に設備取得支出と投資CFを重ねると、利益水準と資金回収の差を確認できる。

📚 着眼点 1: 拠点投資はEBITDAとキャッシュ支出を並べて読む

FY2026/3 EBITDAは営業利益369.96億円+減価償却325.29億円=695.25億円だった。
設備取得支出416.41億円を差し引いた単純比較では、投資支出は減価償却費の1.28倍にあたり、単純FCFはマイナス7.39億円。
投資CFには買収や金融投資も含まれるため、この差額を「設備だけの維持費」とはみなさない。

EBITDAは金利・税・減価償却前の利益を比較するのに便利だが、物流拠点や車両を保つための支出は別に必要となる。
センコーではEV/EBITDA8.04倍を、営業CF、設備取得、投資CF、稼働率と並べて読むことで、利益指標が示す姿と実際の資金回収を分けられる。

📚 着眼点 2: 売上成長が資本効率へ届く経路を分解する

FY2022/3〜FY2026/3の売上CAGRは9.6%だが、FY2026/3のROE8.7%は会社目標10%以上に届かなかった。
物流は売上の63.85%、利益率5.93%を占める一方、グループの設備取得支出は減価償却を上回り、FCFは5期連続赤字だった。

この組み合わせでは、売上拡大の内訳が既存拠点の稼働改善なのか、追加の資産・借入を伴う成長なのかを分けて考える必要がある。
利益率、資産回転、借入、投資後の営業CF・FCFを順に照合すれば、売上規模だけで資本効率を判断する誤りを減らせる。

📚 着眼点 3: センコーの指標ポジショニング

指標 センコー 選定同業平均 全上場中央値 目安・比較軸と評価
PER 13.48倍(FY2027/3予想) 13.88倍(2社実績) 13.76倍(有報期末) 陸運業中央値12.66倍。予想と実績の分母差に注意
PBR 1.32倍(FY2026/3末) 1.58倍 1.17倍 陸運業中央値0.97倍。ROE・資本構成と併読
ROE 8.7% 11.6% 8.20% 8%目安をわずかに上回るが、会社目標10%には未達
営業利益率 4.11% 4.91% 6.35% 陸運比較資産のFY2025平均3.85%を上回るが全上場中央値は下回る
自己資本比率 27.6% 36.15% 56.92% 選定同業内ではSBSに近い。業態差に注意
配当利回り 2.79%(FY2026/3実績) 2.99% 2.90% 市場中央値付近。FY2027/3予想配当56円は期末スナップ値で計算すると3.12%
EV/EBITDA 8.04倍(暫定) 7.69倍 7.40倍 陸運業中央値8.69倍。対象の一部負債科目が欠測
確認済み科目NC比率 -77.2%(暫定) -38.9% 同一定義の値なし 短期有価証券・一部流動負債を含まない
CCC 30.0日(期末残高法) 同一定義の値なし 同一定義の値なし 平均残高ではない簡便法で、同業順位に使えない

選定同業平均はSGホールディングス(9143)とSBSホールディングス(2384)の単純平均。
PER・PBR等の時価指標はEDINET期末スナップショットを用い、PERは対象だけFY2027/3会社計画、競合は実績。
SBSの決算期はFY2025/12で、センコー・SGのFY2026/3と一致しない。
全上場中央値はEDINET DB指標ページ(2026-10-07表示)を参照し、対象社数は指標ごとに異なる。
各中央値は業種・決算期を揃えた比較ではなく、NC比率とCCCは統一定義の中央値が取得できなかった。EDINET DB指標ページ

参考情報

ガバナンス・会社情報: 代表取締役社長は福田泰久氏。
創業1916年9月、会社設立1946年7月。
FY2026/3のグループ従業員は27,835人、持株会社単体は203人で、単体の平均年齢43.9歳、平均勤続11年、平均年間給与816.4万円。
有報に記載された監査法人は太陽有限責任監査法人。
取締役11人中、社外取締役は5人。
主要取引銀行と海外拠点の網羅的な所在地一覧は今回確認した開示本文から特定できなかった。

FY2026/3有報記載の上位株主(2026-03-31時点):

順位 株主名 持株比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.13% 信託銀行
2 日本カストディ銀行(信託口) 6.31% 信託銀行
3 個人株主(資料上氏名非開示) 4.91% 個人
4 いすゞ自動車株式会社 2.36% 事業会社
5 旭化成株式会社 2.13% 事業会社

2026-07-31提出の大量保有報告ではNAVF関連の保有合計12.74%(Dalton Investments 11.90%、NIPPON ACTIVE VALUE FUND PLC 0.57%、NAVF Select (Master) 0.27%)が記載された。
これは年次有報の3月末株主構成とは別基準日である。
2026-06-25株主総会に関する提案の提出は確認できるが、議決結果は取得資料で確認できないため記載しない。

データ時点: 財務・セグメントはFY2026/3末、四半期業績はFY2027/3 Q1(2026-06-30期末、8月12日公表)、時価総額・倍率はFY2026/3期末スナップショット。
価格取得に失敗したため2026-10-07の現値は反映していない。
NCの暫定比率・EV/EBITDAにも、短期有価証券・一部流動区分の不足が残る。

出典

  1. センコーグループホールディングス FY2026/3有価証券報告書(EDINET書類ID S100YH4R): https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100YH4R
  2. FY2027/3 Q1決算資料(2026-08-12): https://www.senkogrouphd.co.jp/ir/news/assets/20260812.pdf
  3. センコーグループ IRカレンダー: https://www.senkogrouphd.co.jp/ir/calendar
  4. 国土交通省「物流効率化法」: https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/seisakutokatsu_freight_mn1_000034.html
  5. 国土交通省「貨物自動車運送事業法等の改正」: https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_mn4_000019.html
  6. SGホールディングスFY2026/3有報 S100Y9P7: https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100Y9P7
  7. SBSホールディングスFY2025/12有報 S100XSXL: https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100XSXL
  8. EDINET DB全上場指標(PER、PBR、EV/EBITDA、ROE、営業利益率、自己資本比率、配当利回り): https://edinetdb.jp/metrics/per ; https://edinetdb.jp/metrics/pbr ; https://edinetdb.jp/metrics/ev-ebitda ; https://edinetdb.jp/metrics/roe ; https://edinetdb.jp/metrics/operating-margin ; https://edinetdb.jp/metrics/equity-ratio ; https://edinetdb.jp/metrics/dividend-yield
  9. 2026-07-31提出の大量保有報告(EDINET書類ID S100YT9B): https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/WZEK0040.aspx?S100YT9B