📚 業界ノート

清水建設株式会社

【経済・建設業】建設業企業バリュエーション分析更新 2026-10-10

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目次
  1. 1. 事業構造
  2. 工事の採算と施工能力が利益を決める
  3. 建築中心の事業に開発・周辺領域を加える
  4. 成長投資は事業間のつながりと回収で見る
  5. 2. 財務
  6. FY2026/3は営業利益が戻ったが、純利益には特別損益が含まれる
  7. 財務指標を9つの基準で点検する
  8. 営業利益と現金収支の間に運転資本の振れがある
  9. 3. バリュエーション
  10. 現値と会社予想を同じ株数基準で照合する
  11. 倍率ベース感応度(倍率のみ)
  12. 4. 同業比較
  13. 5. リスク
  14. 資本配分とガバナンスの確認点
  15. 6. バリュエーション統合
  16. 倍率差には収益性と利益の振れが反映される
  17. 利益回復の確度が倍率の読み方を左右する
  18. 条件別の事業シナリオ
  19. 監視日程と確認事項
  20. M&A・出資を取得側から評価する論点
  21. 7. 学びのポイント
  22. 📚 着眼点1:受注残は利益ではなく、採算付きの仕事の束
  23. 📚 着眼点2:利益と現金のズレが建設業では大きくなる
  24. 📚 着眼点3:倍率の低さは利益の質と資本配分から読む
  25. 相場観テーブル
  26. 参考情報
  27. 大株主(FY2026/3有価証券報告書)

清水建設株式会社(1803)銘柄レポート

要点
  • 事業:建築を軸に大型工事を請け負い、工事採算と施工能力で利益が動く総合建設会社。
  • 財務:FY2026/3は営業利益が回復した一方、純利益には有価証券売却益が含まれ、営業CFは売上債権増加で減少した。
  • 最大論点:受注残の規模を利益と現金に変えながら、資材・労務費上昇と大型工事の採算を管理できるか。

連結・百万円。単体別記

株数注記: 時価総額は発行済1,455,955百万円、自己株控除後1,379,470百万円。倍率は後者。

1. 事業構造

工事の採算と施工能力が利益を決める

清水建設は建築・土木中心の総合建設会社。FY2026/3連結売上の71.8%を建築が占め、施工実績、人材、協力会社網、発注者との関係が受注・遂行の基盤となる。

請負工事は契約額と見積原価を基礎に進む。
資材価格や賃金が契約後に上がると、価格変更を交渉できない部分は請負会社側の採算を圧迫する。
仕様変更、施工条件、工期の遅れも追加コストにつながる。
したがって、受注高だけでなく、契約時採算、価格転嫁条項、現場の進捗、完成時までの原価見通しが利益の先行情報になる。

FY2026/3単体の受注高は1,898,176、完成工事高1,589,544、期末繰越工事高2,636,969。
受注高はFY2025/3から約35.2%増、繰越工事高は約13.3%増だった。
繰越工事高は単体完成工事高の約1.66倍だが、これは現在の売上高で割った単純比率であり、将来の売上・利益を保証しない。
受注時の利益率が低い案件、工期が長い案件、原価が増えやすい案件が積み上がれば、受注残の大きさと利益創出力は一致しない。

建築中心の事業に開発・周辺領域を加える

FY2026/3 セグメント 外部売上 構成比 セグメント利益 利益率 読み方
建築 1,477,782 71.8% 90,681 6.1% 最大事業。国内建築工事の採算改善が連結利益回復の中心
その他 371,693 18.1% 30,527 8.2% エンジニアリング、建物ライフサイクル、子会社など複数領域を含む
道路舗装 155,745 7.6% 10,585 6.8% 外部売上。内部売上12,604は含めない
投資開発 52,581 2.6% 16,734 31.8% 不動産等。売却・評価の時期で利益が変動しやすい

出典: FY2026/3有価証券報告書(連結セグメント、外部顧客売上)。

連結調整があるため、表のセグメント利益の単純合算は連結営業利益と一致しない。
「その他」には複数事業が含まれ、単一の成長事業として評価できない。
投資開発は売上構成比に比べ利益寄与が大きい一方、開発資産や売却時期、市況の影響を受ける。
FY2026/3の「その他」には減損損失24,439が報告されており、新規領域や保有資産は投資後の収益性も追う必要がある。

需要機会は半導体工場、データセンター、都市開発、インフラ更新、防災、再生可能エネルギーなど。顧客の投資判断、資材・人員確保、短工期、仕様変更で採算は変わるため、案件額だけでなく採算と工程を確認する。

成長投資は事業間のつながりと回収で見る

「SHIMZ VISION 2030」は建設技術・顧客接点を軸に周辺領域へ収益源を広げる。
中期計画〈2024–2026年度〉はFY2025/3〜FY2027/3を対象とし、投資枠360,000、FY2026/3末までの実績約235,000、別枠M&A配分約89,700。
計画・支出・配分は合算しない。

青海建設は2026-03-30の増資引受でFY2026/3に連結子会社化(有報S100YDXD)。
同年度は貸借対照表のみ連結し、損益計算書に同社業績は含めない。
AECは2026-03-05取得決定、当初予定は2026年5月下旬以降と公表され、2026-09-01完了(FY2027/3)。
青海建設は洋上風力・港湾、AECは沖縄の米軍施設・ITインフラを補う。
利益・CF、統合費用、採算、人材定着を追う。

2. 財務

FY2026/3は営業利益が戻ったが、純利益には特別損益が含まれる

連結(百万円。EPS/BPS/DPSは円) FY2022/3 FY2023/3 FY2024/3 FY2025/3 FY2026/3
売上高 1,482,961 1,933,814 2,005,518 1,944,360 2,057,802
営業利益 45,145 54,647 △24,685 71,030 118,669
経常利益 50,419 56,546 △19,834 71,664 122,324
親会社株主帰属純利益 47,761 49,057 17,163 66,015 126,617
EPS 64.09 66.29 23.57 94.80 186.68
売上高前年比 — +30.4% +3.7% △3.1% +5.8%
営業利益率 3.04% 2.83% △1.23% 3.65% 5.77%
純利益率 3.22% 2.54% 0.86% 3.39% 6.15%
総資産 2,128,356 2,448,010 2,538,769 2,524,219 2,654,382
流動資産 1,150,085 1,453,897 1,470,680 1,517,057 1,612,004
負債合計 1,253,184 1,540,733 1,590,710 1,600,297 1,653,207
純資産 875,172 907,277 948,059 923,922 1,001,175
自己資本比率 38.7% 34.8% 35.0% 34.1% 36.8%
BPS 1,116.89 1,150.70 1,243.88 1,260.48 1,439.89
営業CF 77,772 83,842 △21,253 159,094 41,639
投資CF △89,308 △52,434 △5,358 7,813 △6,858
財務CF 19,634 65,635 △23,972 △71,102 △120,591
現金及び現金同等物 287,134 386,750 339,240 438,144 354,492
減価償却費 20,213 25,798 30,256 33,478 33,511
年間配当 23 21 20 38 72

出典: FY2026/3有価証券報告書(連結、FY2022/3〜FY2026/3)。

FY2026/3売上高は5.8%、営業利益は67.1%、純利益は91.8%増。
営業利益率はFY2024/3の△1.23%からFY2026/3の5.77%へ回復し、会社は国内建築工事の採算改善を主因に挙げた。本業の回復は確認できる。

財務指標を9つの基準で点検する

チェック項目 FY2026/3の値 基準・比較 判定 読み方
自己資本比率 36.8% 40%超 ❌ FY2025/3〜FY2027/3計画の35%は達成。40%目安の対象年度は資料で特定できず
有利子負債と現金 負債532,313、現金354,492 有利子負債<現金 ❌ 短期有価証券118,000は現金に含めない
流動比率 130.0% 150%超、建設業中央値195.9% ❌ 短期債務・工事運転資本も見る
利益剰余金 710,527 0超 ✅ FY2026/3末に正の残高
営業CFの3期連続黒字 FY2024/3 △21,253、FY2025/3 +159,094、FY2026/3 +41,639 3期連続黒字 ❌ FY2024/3に赤字
3期連続配当 FY2024/3 20円、FY2025/3 38円、FY2026/3 72円 3期連続支払い ✅ FY2027/3は77円を会社予想
EPSの前年比 FY2026/3 186.68円、FY2025/3 94.80円 前年比プラス ✅ 特別利益を含む
ROE 13.8% 8%超、建設業中央値10.58% ✅ FY2026/3純利益の特別損益が高く、平常収益力と同一視しない
営業利益率 5.77% 建設業中央値7.53% ❌ 回復後も中央値未満
売上高前年比 +5.8% 建設業中央値+4.78% — 売上成長は中央値を上回る。利益率や現金回収とは別に評価

出典: FY2026/3有報、EDINET DB FY2026建設業ベンチマーク(128社)。健全性スコア73/100は情報要約で格付けではなく、弱点を打ち消さない。

純利益には有価証券売却等の特別利益96,401、特別損失25,389(差引+71,012)が含まれる。継続成長とはみなさず、営業利益率と営業CFで本業と現金化を分ける。

営業利益と現金収支の間に運転資本の振れがある

FY2026/3営業CFは41,639で、FY2025/3から117,455減少。
会社は売上債権の増加を主因とする。
工事進捗・検収・支払条件で利益とCFはずれるが、債権増加や回収遅延が続けば利益の現金化が遅れる。

FCF(営業CF+投資CF)はFY2022/3から順に△11,536、+31,408、△26,611、+166,907、+34,781。平準化せず、入金・投資・株式売却の構成を見る。

FY2026/3財務CFは△120,591(返済・還元等)、現金は83,652減の354,492。
流動比率130%、自己資本比率36.8%。
中期計画〈2024–2026年度、FY2025/3〜FY2027/3〉の35%・D/E1.0倍以下はFY2026/3末に達成。
会社の新目安40%・D/E約0.7倍は未達だが、対象年度は資料で特定できない。

FY2026/3売上債権953,196、仕入債務352,949、棚卸1,198、売上原価1,799,710から、CCC=債権/売上×365+棚卸/原価×365−債務/原価×365=97.7日(FY2025/3: 83.7日)。
請求・検収時期の影響もあるため、営業CFと併せて見る。

当初通期予想比で、FY2025/3実績は売上・営業利益が約4.5%・26.8%、FY2026/3は約7.7%・52.1%上振れ。
予想→実績は各期1,860,000/56,000→1,944,360/71,030、1,910,000/78,000→2,057,802/118,669。
期中修正があり、2期から予測精度を断定しない。

標準NC=現金及び現金同等物+短期有価証券−有利子負債。
FY2026/3は354,492+118,000−(短期借入237,383+長期借入128,930+社債156,000+1年内償還10,000)=△59,821。
投資有価証券は含めず、会社MD&Aの有利子負債567,400とは対象範囲が異なる。
FY2025/3の+50,206から、取得・返済・現金減で負に転じた。

NCAVの限界

広義NCAVは流動資産1,612,004+投資有価証券303,343×70%−負債合計1,653,207=171,137(FY2026/3)。
掛け目は分析上の仮定で、換金額や即時返済可能性を保証しない。

3. バリュエーション

現値と会社予想を同じ株数基準で照合する

倍率計算には自己株控除後株数を用いる。 2026-10-09終値2,031.5円。
FY2026/3末BPS1,439.89円、FY2027/3予想EPS243.72円・配当77円。
2026-07-30時点の発行済株式716,689,413株、自己株37,649,357株、控除後679,040,056株。

終値×発行済株式数の時価総額は約1,455,955百万円、自己株控除後は1,379,470百万円(差5.3%)。
倍率は後者を使用。
価格は2026-10-09終値、株数は2026-07-30会社開示値。
EDINET期末値は使わない。

指標 算定 FY/基準 解釈上の注意
予想PER 2,031.5円÷243.72円=8.34倍 FY2027/3会社予想EPS 予想純利益165,500に対する自己株控除後時価総額倍率も約8.34倍
PBR 2,031.5円÷1,439.89円=1.41倍 FY2026/3 BPS 期末簿価に基づく
予想配当利回り 77円÷2,031.5円=3.79% FY2027/3会社予想 税引前、予想配当が実施される前提の算術値
EV/EBITDA 清水9.46 / 鹿島9.56 / 大林7.85倍 FY2026/3実績 清水式: (時価総額1,379,470−NC△59,821)÷EBITDA152,180。大成は証券額未確認
標準NC / CN-PER △59,821 / △4.34% / 8.70倍 FY2026/3 NC、FY2027/3予想純利益 現預金+短期有価証券−有利子負債。負のNCはCN-PERを押し上げる
広義NCAV / CN-PER 171,137 / 12.41% / 7.30倍 FY2026/3 NCAV、FY2027/3予想純利益 流動資産+投資有価証券×70%−負債合計
5期標準NC / 現在時価総額比 NC: △66,420 / △89,686 / △110,797 / +50,206 / △59,821; 比率: △4.81 / △6.50 / △8.03 / +3.64 / △4.34% FY2022/3→FY2026/3 CPは該当期に加算。比率は全期とも現在時価総額1,379,470で算定
5期広義NCAV / 現在時価総額比 NCAV: 125,686 / 132,242 / 141,080 / 126,415 / 171,137; 比率: 9.11 / 9.59 / 10.23 / 9.16 / 12.41% FY2022/3→FY2026/3 比率は全期とも現在時価総額1,379,470で算定
EV/EBITDA(NC定義別) 標準NC9.46倍 / 広義NCAV7.94倍 FY2026/3 EBITDA152,180 広義NCAVをEV調整に使う分析上の定義

倍率ベース感応度(倍率のみ)

評価軸 下側参照 中央参照 上側参照 比較根拠
予想PER 8.34倍 10.35倍 12.48–12.86倍 清水FY2027/3予想、建設業FY2025中央値、同業FY2027/3予想
実績EV/EBITDA 7.85倍 9.46倍 9.56倍 大林組、清水、鹿島のFY2026/3実績

清水のFY2022/3〜FY2026/3実績PERは11.3–42.4倍。予想PERとは期間・利益基準が異なるため比較軸として示す。

FY2027/3予想EBITDAは、会社予想営業利益153,000にFY2026/3減価償却費33,511を据え置いて186,511と試算すると、EV/EBITDAは約7.7倍となる。
減価償却費は会社予想ではない。
買収、設備投資、資産構成が変われば実績と乖離するため、約7.7倍は条件付きの参考値である。

NC・NCAVの定義は表のとおり。過去残高比率は当時の株価倍率でなく、資産・負債の現在時価総額に対する規模を示す。

DCFは非掲載。会社開示に基づく5期FCFが変動し、将来5期FCF、WACC、永久成長率が同一根拠でそろわないため、入力を推測しない。

4. 同業比較

清水の予想PERは同業より低い一方、営業利益率は低くCCCは長い。 比較先は鹿島(1812)、大林(1802)、大成(1801)。
FY2026/3実績、FY2027/3予想、2026-10-09終値、自己株控除後株数を使用(百万円)。

指標 清水建設 1803 鹿島 1812 大林組 1802 大成建設 1801
2026-10-09終値 2,031.5円 4,735円 2,850.5円 11,750円
時価総額(10億円、自己株控除後) 1,379.5 2,181.6 1,959.5 1,915.4
売上高(FY2024/3→FY2026/3、百万円) 2,005,518→1,944,360→2,057,802 2,665,175→2,911,816→3,067,275 2,325,162→2,590,765→2,586,258 1,765,023→2,154,223→2,089,091
営業利益率(FY2024/3→FY2026/3) △1.23%→3.65%→5.77% 5.11%→5.22%→7.85% 3.41%→5.50%→7.53% 1.50%→5.58%→9.00%
FY2026/3自己資本比率 36.8% 39.0% 40.0% 34.9%
FY2026/3 ROE 13.8% 13.3% 14.4% 18.7%
FY2027/3予想EPS 243.72円 368.2円 228.39円 926.33円
予想PER 8.34倍 12.86倍 12.48倍 12.68倍
PBR 1.41倍 1.56倍 1.56倍 2.02倍
FY2027/3予想配当利回り 3.79% 3.08% 3.30% 3.23%
FY2026/3 EV/EBITDA 9.46倍 9.56倍 7.85倍 算定保留
標準NC/時価総額 △4.34% △20.19% +7.46% 算定保留
FY2026/3 CCC 97.7日 59.5日 56.5日 66.2日

出典: 各社FY2026/3有報・FY2027/3予想、2026-10-09終値(株価URLは末尾)。

FY2027/3予想純利益は清水165,500、鹿島170,000、大林157,000、大成151,000、予想配当は77/146/94/380円。
PER=終値÷会社予想EPS。
鹿島・大林EV/EBITDAは開示債務・現金で算定、大成は短期有価証券額を確認できず保留。

FY2024/3〜FY2026/3に3社の営業利益率は改善。清水のCCCは長く、検収時期も踏まえCFを追う。低PERの背景を採算、利益率、回収で検証する。

5. リスク

最大リスクは請負採算の下振れで、利益と現金回収を同時に圧迫しうる。

# リスク要因 影響度 発生可能性 具体的な影響シナリオ 開示・対応と確認点
1 工事採算・資材/労務費・大型工期 高 高 契約後の資材・賃金上昇、見積り誤差、仕様変更、人員不足が重なると追加原価で利益率が低下し、工事損失が発生 FY2024/3は営業赤字。受注選別、工事損失引当、大型案件の採算改定、価格転嫁条件を確認
2 人材と施工能力 高 中〜高 監督者・技能者を確保できず、受注機会の逸失、工期遅延、外注費・残業費の上昇につながる ICT・AI、施工前倒し、生産性向上を掲げる。工期遵守、手戻り、安全、人員定着を確認
3 運転資本・債権回収 高 中 売上債権・契約資産の増加や検収遅れで営業利益の現金化が遅れ、投資・返済余力を圧迫する FY2026/3営業CF41,639、CCC97.7日。債権残高、回収条件、営業CFを確認
4 不動産、買収、新規事業 中〜高 中 金利・市況悪化、統合難、取得価格過大、資産評価低下で売却益縮小・減損・資金拘束が生じる 投資開発利益率は高いが変動し、「その他」に減損損失24,439。投資後の利益・回収を確認
5 政策保有株式 中 中 売却協議が遅れ、縮減目標に届かず、株価下落や資金化の遅れが資本配分に影響する FY2026/3末比率24.4%で20%以下の目標未達。売却合意、残高、現金化を別々に確認
最大の事業リスク:請負採算の下振れ

清水建設が受注時に置いた原価・工期の前提が、資材・労務費上昇や仕様変更で崩れると、進行中案件の採算低下が完成まで続く。
FY2024/3の営業赤字は工事採算が想定を下回った場合の利益変動を示す。
受注残が積み上がっていても、追加原価を転嫁できず現場能力も不足する場合、売上成長と利益回復が分かれる。

バリュートラップとして見るべき点

予想PER8.34倍は同業の12倍台より低い一方、営業利益率は建設業中央値を下回り、FY2026/3純利益には有価証券売却等の特別損益が含まれる。
標準NCも△59,821で、現金余力を理由に低倍率を説明できない。
利益の正常化、営業CFの回復、政策保有株式の縮減が見えなければ、倍率差が長引く構造要因が残る。

防災・インフラ更新や民間設備投資が需要を支える一方、資材・エネルギー価格、人手不足、賃金上昇が供給を制約する。名目工事額の伸びは数量・利益の伸びと同じではない。

資本配分とガバナンスの確認点

FY2025/3は政策保有株39銘柄、109,100を売却。
FY2019/3〜FY2026/3累計は120銘柄、317,800、残高93銘柄。
FY2026/3末比率24.4%は20%以下の目標未達で、売却合意分を除けば9.1%との説明。
一部はFY2027/3期・FY2028/3期へ遅れる可能性があり、合意・残高・売却益・現金化日を分けて追う。

2026年6月26日総会後の取締役会は11名(社外4名)、監査等委員会設置会社。
会長は井上和幸、社長は新村達也、会計監査人はEY新日本有限責任監査法人。
構成だけでなく、工事損失、政策株縮減、買収後の資本効率への監督を確認する。

6. バリュエーション統合

倍率差には収益性と利益の振れが反映される

予想PER8.34倍は2026-10-09時点で同業より低い。 業種FY2025中央値10.35倍、同業FY2027/3予想12.48–12.86倍を下回る(期間・利益基準は異なる)。
FY2026/3営業利益率5.77%も中央値7.53%未満で、FY2024/3営業赤字を含む採算変動と整合する。

FY2026/3売上成長率は業種中央値超だが、純利益は特別損益を含み、自己資本比率36.8%、政策株比率24.4%も課題。
受注残・採算改善で評価軸は変わり得る。
カバレッジや現在のアクティビスト保有を低倍率理由とする証拠はなく、利益再現性、営業CF、政策株縮減で検証する。

利益回復の確度が倍率の読み方を左右する

参照倍率は予想PER8.34倍、PBR1.41倍、実績EV/EBITDA9.46倍。
FY2026/3減価償却を据え置くFY2027/3試算は約7.7倍だが、減価償却費は会社予想でない。
倍率差を評価余地とは直結させない。

標準NCが負のためEVは時価総額より59,821大きい。
標準CN-PER8.70倍、広義CN-PER7.30倍はFY2027/3予想利益を分母とする別定義の比較値で、広義NCAVは換金価値を保証しない。
会社予想は売上2,310,000、営業利益153,000、純利益165,500。
第1四半期累計実績(売上482,829、営業利益19,283)とは工事進捗・検収時期が異なり、通期予想と直接比較しない。

条件別の事業シナリオ

上振れ:工事採算と現金回収が揃って改善

建築採算、受注選別、価格転嫁が続き、FY2027/3営業利益予想153,000と営業CF回復を実現する場合、予想PER8.34倍が建設業中央値や同業レンジに近づくかを、年度・利益基準をそろえて見る。

基準:会社予想に沿い、改善の再現性を確認

会社予想近辺で着地しても賃金・資材費と運転資本が改善を一部相殺する。PER8.34倍と試算EV/EBITDA約7.7倍を参照し、利益率・営業CF・受注採算の複数期再現性を見る。

下振れ:原価超過と回収長期化が重なる

原価上昇、人手不足、仕様変更に発注延期や回収遅延が重なると、固定価格契約の超過原価で利益が落ちる。
EPS低下でPERは上がり、負の標準NC下で回収も遅れればEV・財務評価が悪化する。
工事損失、CCC、営業CF、減損、政策株の売却を追う。

倍率は事業条件の比較尺度で、株価水準や発生確率を示さない。上振れには建築採算、施工能力、人員確保、現金回収がそろう必要がある。

監視日程と確認事項

日付 種別 確認する内容
2026-11-09 会社公表済 FY2027/3第2四半期決算。通期予想、建築採算、受注残、営業CFを確認
2026-11-09 会社公表済 決算説明会(オンライン)。受注選別、価格転嫁、投資計画の説明を確認
2027-03-29 算出日・会社確認要 2027-03-31基準日の権利付き最終日として2営業日前を算出。会社の正式日程で確認
2027-03-31 監視日 FY2027/3期末。政策保有株式の縮減と自己資本比率を確認
2027-05-12 仮置き・未公表 FY2027/3通期決算の確認候補日。FY2026/3の開示日を参考にした日付で、会社発表ではない
2027-06-25 仮置き・未公表 定時株主総会の確認候補日。正式日程は未公表
2027-07-30 仮置き・未公表 FY2028/3第1四半期開示の候補日。FY2027/3第1四半期の2026-07-30を参考
2028-03-31 監視日・会社確約期限ではない FY2027/3期・FY2028/3期へ遅れる可能性のある政策株売却を含め、削減実績と現金化を確認

M&A・出資を取得側から評価する論点

取得側が許容するEVは、平常時EBITDAから維持投資、運転資本、純有利子負債、偶発債務を調整し、実現可能なシナジーを加味して考える。
清水建設のFY2026/3標準NCは△59,821で、余剰現金を取得対価の根拠にできない。
青海建設の洋上風力・港湾施工力とAECの沖縄基盤・米軍施設実績は補完要素だが、人員・協力会社の競合、管理費重複、契約慣行の違い、保証債務、キーパーソン離職は逆効果となり得る。
DDでは受注残採算、顧客集中、偶発債務、環境・工事保証、運転資本、設備更新、許認可、人材定着、取得後CFを確認する。
個別の取得価格・利益計画は未開示のため倍率を推定しない。

7. 学びのポイント

📚 着眼点1:受注残は利益ではなく、採算付きの仕事の束

FY2026/3単体繰越工事高2,636,969は完成工事高の約1.66倍だが、売上保証ではない。 契約採算、工期、原価変動条項、発注者、検収・入金条件に分けて見る。
受注残は売上機会と原価・運転資本リスクを併せ持ち、増加が利益成長に直結するとは限らない。

📚 着眼点2:利益と現金のズレが建設業では大きくなる

FY2026/3営業利益118,669に対し営業CFは41,639、CCCは97.7日。
比較3社は56–66日だが、工事進捗・検収時期でも差が生じるため1期だけで債権の質を断定しない。
回収遅れが続けば資金需要が増えるため、利益率・債権・営業CFを同じ期間で追う。

📚 着眼点3:倍率の低さは利益の質と資本配分から読む

FY2026/3純利益は特別損益を含み、ROE13.8%は平常収益力と同じでない。
予想PER8.34倍は同業より低いが、営業利益率は業種中央値未満、標準NCは負、政策株比率は20%目標を超える24.4%。
倍率差を利益の振れ、財務余力、資本政策の実行から読む。

相場観テーブル

指標 清水建設 全上場中央値 建設業中央値 目安と評価
予想PER 8.34倍 データ未取得 10.35倍(FY2025) 現在は会社予想、業種値はFY2025実績ベースで基準差あり
PBR 1.41倍 データ未取得 0.90倍(FY2025) FY2026/3 BPSと10/9株価の組合せ。比較時点差あり
ROE 13.8% データ未取得 10.58%(FY2026) 8%超を参考にできるが、特別利益を含み平常値と分ける
EV/EBITDA 9.46倍 データ未取得 算定値なし 同一NC定義の同業比較では鹿島9.56倍、大林7.85倍
配当利回り 3.79% データ未取得 3.56%(FY2026) 77円は会社予想。支払実績とは異なる
営業利益率 5.77% データ未取得 7.53%(FY2026) 業種中央値以上が比較目安。清水は回復後も下回る
自己資本比率 36.8% データ未取得 56.47%(FY2026) 40%目安は未達。対象年度は資料で特定できず
流動比率 130.0% データ未取得 195.91%(FY2026) 150%超を参考に、工事債権の回収時期も確認
売上高前年比 +5.8% データ未取得 +4.78%(FY2026) 売上成長だけでなく利益率と現金回収を併せて見る

全上場中央値は取得できず空欄。建設業中央値はFY2026のEDINET DB(128社)、PER・PBRはFY2025(127社)で期間差がある。建設業値を全上場の代用にはしない。

参考情報

1804年創業、1937年に株式会社清水組を設立、1948年改称。
FY2026/3末連結従業員22,278人、海外施工実績約60カ国。
監査人はEY新日本、主要取引銀行は未確認。
2026-06-26総会後の取締役会は11名(社外4名)、会長井上和幸、社長新村達也。
工事損失見積り、政策株縮減、買収後資本効率への監督を確認。
出典: 沿革、会社概要、事業紹介、AEC取得完了。

大株主(FY2026/3有価証券報告書)

順位 株主名 保有比率 区分
1 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 13.17% 信託口
2 清水地所株式会社 12.18% 事業会社
3 清水建設財団 5.71% 財団
4 日本カストディ銀行(信託口) 4.36% 信託口
5 住総研 3.48% 財団・研究機関

大株主表はFY2026/3有報の基準日スナップショット。
信託口は実質受益者別でなく、大量保有報告書とも合算しない。
Silchester変更報告書(S100RWDV、2023-09-27提出)は3.98%だが過去の届出で、現況を示さない。

主要情報はFY2026/3有価証券報告書(EDINET docID S100YDXD)、2026-07-30 FY2027/3第1四半期決算短信、会社IR資料による。
セグメント・経営方針は清水建設IR資料一覧、経営戦略・中期計画、事業セグメント情報、コーポレートレポートを参照。
ガバナンスはコーポレートガバナンス情報、役員は役員一覧、沿革は会社沿革、海外拠点は海外事業所一覧を参照。

FY2027/3第2四半期決算と説明会の日程は会社IRカレンダーで2026-11-09と確認。
市場価格はYahoo!ファイナンス 清水建設の時系列、鹿島、大林組、大成建設の2026-10-09終値を使用した。
市場価格は二次情報、財務・会社予想は会社開示を優先した。

建設業中央値はFY2026ベースのEDINET DB業種ベンチマーク(128社)、FY2025ベースのPER・PBRは33業種別財務中央値集計(建設業127社)を参照。
全上場中央値が確認できない指標は欠測のまま表示した。